こんにちは、ハイタレント広報です。
2026年6月25日(木)、オンラインにて第2回ウェビナー「新規事業のPoC後、撤退?継続?追加資源投入? ~技術・マーケティング・投資判断を統合するフレームワーク~」を開催し、新規事業責任者・経営企画担当者・研究開発責任者を中心にご参加いただきました。
講師は、BCG出身で戦略コンサルタントとしての知見と自らも上場を経験した事業経営の両面を持つ水山裕文氏。ハイタレントにもご登録いただいているプロフェッショナルで、当社経由でも多くの企業を支援してきた方です。

本ウェビナーは全3回シリーズの第2回です。第1回では「新規事業とは、段階的な投資の意思決定である」という土台を扱いました(第1回のレポート)。今回はその先、実際の判断場面で何を優先するかに踏み込みます。
プロセスもPoCも揃えた。それでも事業が前に進まないのはなぜか
道具は揃っているのに、事業が前に進まない——第2回は、この矛盾から始まりました。次のような状況に、覚えはないでしょうか。
- PoCはやった。ステージゲートも入れた。それでも「次にいくら賭けるか」が決まらない
- 「もう少し様子を見よう」という判断が繰り返されている
- 技術・マーケティング・投資で評価が食い違い、どれを優先すべきかわからない
- 続ける / やめる / 位置づけを変えるの判断を、誰も下せないまま会議が終わる
こうした状況に覚えがある方へ、水山氏は第2回の冒頭でこう描きました。
「いろんなプロセス支援をもらった。伴走するコンサルも入れた。技術の洗い出しもした。PoCもやった。ステージゲート管理も取り入れた。——でも、実は立ち上がっていない」
なぜか。問題は道具の質ではなく、「続けるのか、やめるのか、位置づけを変えるのか」という判断が下せないことにあります。これが第2回全体を貫く問題意識でした。
その問いに正面から向き合ったのが、第2回の水山氏のセッションです。
世のフレームワークが「どこに賭けるか・証拠は揃ったか」に偏っている理由
水山氏はまず、世の中の新規事業フレームワークを網羅的に洗い出しました。Stage-Gate、Lean Startup、Three Horizons、NPV、Real Options……数えあげればきりがなく、スライドにはまるで「カオスマップ」のように並びます。

この一見ばらばらなフレーム群も、問うていることで見れば3つの軸に分類できます。
軸Iは「どこに、どう賭けるか」。領域・顧客・勝ち筋を考える軸です。軸IIは「賭けてよい証拠は積み上がったか」。検証と成熟度を問う軸です。軸IIIは「いくら賭け、続けるか・やめるか」。撤退・継続・追加投資を決める軸です。
各軸に対応する代表的なフレームは、次の図に整理されています。

そして水山氏は、各軸に分類されるフレームの数を数えてみせました。
「面白い数字ですのでぜひご覧ください。どの領域に手を出しますかというかたちで使えるフレームワークが20個もあったんです。証拠は揃ったか、これが12個。で、なんとそれにいくらかけるんだ、それを続けるのか続けないのか、そういったものに使えるフレームワークは5個しかなかったのです。非常に手薄でした。」

多くの企業が行き詰まるのは、まさにこの軸III——「いくら賭け、続けるか・やめるか」です。ところが、それを扱える道具こそが、世の中にもっとも少ない。第1回で「PoCはやった、で次は何が生まれるの」と問いかけたことと、フレームワークの分布がぴったり重なります。
では、軸I・軸IIのフレームを使い倒せば軸IIIの判断もできるのか。次の問いはここです。
3つの軸は「順番」ではなく「同時に」問われる
軸I→II→IIIと順番に潰せば答えが出る、とはいきません。水山氏はその理由を、3軸の構造的な性質から説明しました。
「これはよくよく見ると順番ではないのです。本当はさっきの投資といった時に時間軸といったことを考えると、これをやろうと決めた時にはその先どうなったら追加投資をしようか、どうなったら撤退をしようかということまで含めて考えるということが必要になってきます。」
「まず軸Iで領域を絞り、次に軸IIで検証し、最後に軸IIIで撤退/継続を決める」という直線的なプロセスは機能しません。追加投資を決める瞬間、撤退を決める瞬間、Go/Kill/Pivotを判断する瞬間——その都度、3つの軸は同時に問われます。「技術の水準はどうか」「市場・顧客の証拠は揃っているか」「いくら賭け続けるか、やめるか」が同じ判断の場で一度に問われるのです。
しかも多くの企業は、「やるか・やらないか・様子を見るか」から抜け出せていません。本当に必要なのは「続けるか・やめるか・位置づけを変えるか」——スタート時ではなく、走り出してからこそ問うべき問いです。「様子を見よう」が繰り返されるのは、ここに原因があります。

3軸が同時に問われるとはどういうことか。その答えは、各フレームの結論が食い違う4つの典型状況に現れます。
なぜ単一フレームでは Go / Kill / Pivot が決まらないのか
水山氏が挙げたのは、フレーム同士の結論が食い違う4つの典型状況です。いずれも、どれか一つのフレームに当てはめるだけでは判断できないものでした。

たとえば、技術(TRL)は高いのに、顧客検証がまだ終わっていない。技術の評価は優秀でも、その技術に誰がお金を払うのかが見えていない。ここで追加投資に踏み切るべきか——水山氏は、追加投資より顧客検証を優先すべきだと述べます。
あるいは、顧客反応は良いのに、LTV/CAC(顧客生涯価値と顧客獲得コスト)が悪い。手応えはあっても採算が成立しない。スケールを急ぐのではなく、収益モデルの再設計が先だといいます。
NPVは低いのに、戦略的オプション価値が高いケースもあります。単体の財務採算では正当化できなくても、本体への波及効果が大きく、競合に渡せないかもしれない。NPVだけを見れば撤退ですが、戦略的意義が高ければ小さく継続投資するという選択肢があると述べます。
顧客も技術も良いのに、事業責任者がいない、ということも起こります。数字も技術も揃っていても、誰が事業を動かすのかが決まっていない。ここでは投資より先に、体制を決めることが必要だといいます。
フレームは矛盾を「整理」するが、「裁き」はしない。整理はできても、裁きはできない——これが、フレームを学んでも判断が出ない構造的な理由です。
では、矛盾を裁くために何が必要なのか。
矛盾を「裁く」4つの原理
整理するだけでは足りない。水山氏が示したのは、フレームワークよりも上位に置かれるべき4つの原理です。

- 致命的かつ未検証のリスクを最優先で潰す(簡単に試せることから潰すのは、間違った方向に速く進むだけ)
- 戦略価値が高ければ、採算が合わずとも「小さく」残す
- 賭け金は、不確実性が下がった分だけ増やす
- 人と本体接続が欠けるなら、金より先にそれを埋める
どのフレームをどう使うかより先に、判断する人間がこの原理を持っているかが問われます。では、これを経営会議でどう実装するか——その型が、次のリアルオプションと投資委員会メモです。
経営会議で「次の賭け金」が決まらない理由
水山氏が批判的に描いたのは、従来型の意思決定プロセスです。
事業計画を一本作る。そのNPV・IRRを見て「本当に失敗しないのか、やれるのか」と詰める。そして「続けるか撤退するか」は——後から悩む。
「始まって立ち上がった。で、経営企画からいつ黒字になるんだと言われると、いやいや、でもこれは戦略的価値があるんだと担当役員がおっしゃる。よくある状況かと思います。」
なぜ後から悩むことになるのでしょうか。それは「どうなれば続けるか、どうなれば撤退するか」を最初に決めていないからです。
水山氏が対比として示したのが、リアルオプションの考え方です。

ポイントは、続けるか撤退かを「後で悩む」のではなく、Go / Kill / Pivot の条件を先に決めておくこと。投資を「追加投資の権利」として捉え直す発想です。
「本当は最初に、これがわかれば続けるんだと、このことがわかればやめるんだと、あるいはこれがわかったから、この事業の位置づけを変えるんだということを事前にどれだけ議論するかだと思います。」
この考え方を経営会議の「型」として落とし込んだのが、投資委員会メモの7項目です。ここに、なぜ多くの経営会議で「次の賭け金」が決まらないのかを解く鍵があります。
投資委員会の議題を「良さそうか」から「次の賭け金」へ変える
水山氏が示した投資委員会メモは、次の7項目で構成されています。

そして水山氏は、この型に重要な観察を加えました。
「1・2・3。これは普通、投資委員会に出していらっしゃるかと思います。皆さん、この事業良いのではないかという話はしてらっしゃいます。そこまでは多分できています。よく議論されています。世の中にフレームワークもたくさんあります。でもその次に必要なのが4と5と6でございます。私が繰り返し言っております、投資というのはこの4・5・6のことを実は言っています。」
1〜3は「良さそうか」を議論する項目です。4〜6は「次の賭け金を決める」項目です。多くの経営会議が1〜3で終わり、「良さそうか」の議論は充実しているのに、「だから次に何を、いくら、どうなればやめる」という賭け金の決定には至っていない——ここが「軸IIIに踏み込めない」と同じ構造です。
7番目の「本日の決定」が意味を持つのは、4〜6を埋めてから初めてです。
第2回の結論:3軸を束ねる「統合判断」を担う人が要る
第2回の結論は、こうです。技術・戦略・投資の3軸を一つの経営判断として束ね、原理を持って矛盾を裁き、次の賭け金を決める人——「統合責任者」が必要だ。

統合責任者は、3軸すべての専門家である必要はありません。しかし4つの原理を持ち、矛盾を裁き、投資委員会メモの4〜6を埋められる判断を下せる人である必要があります。必要なのは、フレームワークを覚えることではない。3軸を束ね、矛盾を裁き、次の賭け金を決める「統合判断」です。
そして次の問いが立ちます。その人は社内に存在するのか。どう育てるのか。一人に担わせることは現実的なのか——これが第3回(7/9)のテーマです。
参加者から寄せられた問い ― 自社に置き換えると何が難しいのか
Q&Aでは、すでに走り出している新規事業を持つ担当者から、具体的な問いが寄せられました。ここでは共通性の高い4問の要点を紹介します。
Q1. もう走り出している。今問うべきは「続けるか否か」ではなく何か
「『続けるかどうか』より先に、問うべきことがあります。そもそも何を明らかにしようとしてPoCを始めたのか、です。顧客の反応か、リピートか、そもそも作れるのか。その問いに戻り、出た答えをもとに当初の想定の何を変えるかを考える。もしその問いを思い出せないなら、『このプロジェクトは何のためだったか』を問い直すしかありません。」
Q2. 「戦略的に重要だから残す」と「ただ撤退できないだけ」を分ける境界線はどこか
「境界線は、『戦略的に重要』を具体的な因果として説明できるかどうかにあります。この事業があるから他の案件が取れる、問い合わせが増える——そう説明できるなら残す価値があり、説明できないなら撤退も必要です。」
Q3. 撤退基準は「数字」ではなく、本来何に紐づけて定めるべきか
「撤退基準は、そもそも『何が分かれば次のステージに進めるか』に紐づけて定めるべきものです。前提が崩れたら機械的に守らず、そのプロジェクトをパイロット化して全社基準の見直しに波及させることが重要です。」
Q4. 統合判断は、むしろ速く動くための道具になりえるか
「『3軸を統合して判断せよと言われると、検討が重く遅くなりそうだ』——この懸念への答えは明快です。『一人に担わせようとするから無理が出る』。統合判断は一人で背負うものではなく、チームとして持つもの。その移行のかたちが第3回のテーマです。」
第2回の到達点と、次に問うべきこと(第3回 7/9 予告)
第1回と第2回の到達点を合わせると、次のようになります。
第1回の到達点は「新規事業とは、段階的な投資の意思決定である」でした。プロセスを踏むことと事業が前に進むことは別の話で、技術・戦略・投資の3要素を統合して意思決定につなげることが必要だという結論でした。
第2回の到達点は「単一フレームワークでは Go / Kill / Pivot は決まらない」でした。世のフレームは軸I・軸IIに偏っており、軸IIIを扱えるものは少ない。フレームは矛盾を整理するが裁きはしない。4つの原理で矛盾を裁き、投資委員会メモの4〜6を埋めることが「投資判断をする」ということだという結論でした。
これを受けて、第3回では次の問いに向き合います。
- その統合責任者は、天才でなければ務まらないのか
- 今すでに走っている新規事業から、どう移行するか
- コンサルタントは「丸投げ先」ではなく「触媒」として、どう機能するか
アーカイブ視聴 / 第3回のご案内
第2回の動画アーカイブでは、本記事で紹介した内容に加え、Q&Aで挙がった各問いの具体的な背景や前提条件まで、水山氏が踏み込んで答えています。
- 「何が分かれば次に進めるか」を問い直せないプロジェクトをどう扱うか(Q1の詳細)
- 「戦略的に重要」を具体的な因果として説明する際の考え方(Q2の詳細)
- 撤退基準をパイロットプロジェクト化して全社基準に波及させる進め方(Q3の詳細)
- 統合判断をチームで持ち、共通基準に移行するための進め方(Q4の詳細は第3回へ)
シリーズの続き
第2回で残した「では統合責任者は誰がなるのか」という問いは、最終回で扱っています。
- 第1回: いつ、コンサルタントを使うべきか? — 新規事業とは、段階的な投資の意思決定である
- 第3回: 統合責任者は、どこから来るのか ー 必要なのは天才ではない — 統合責任者は誰がなるのか、今の新規事業組織からどう移行するか
水山氏との個別勉強会もご案内しています。自社の新規事業に当てはめた「統合判断の設計」について、カスタマイズした形でご相談いただけます。ご希望の方はお問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。
ご参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました。
『HiTalent(ハイタレント)』は、戦略コンサルファーム出身者を中心とした審査済みのプロフェッショナルと、その活用を検討する企業をつなぐ案件マッチングプラットフォームです。戦略を描くだけでなく実行まで伴走できる人材を、新規事業・変革部門の「実行で詰まる」フェーズに、必要な分だけ(お一人から、チームでも)ご活用いただけます。

