こんにちは、ハイタレント広報です。
2026年6月18日(木)、オンラインにて第1回ウェビナー「いつ、コンサルタントを使うべきか? ー 0→1の次、新規事業育成の各段階における活用事例」を開催し、新規事業責任者・経営企画・研究開発責任者を中心にご参加いただきました。
講師は、BCG出身で戦略コンサルタントとしての知見と自らも上場を経験した事業経営の両面を持つ水山裕文氏。ハイタレントにもご登録いただいているプロフェッショナルで、当社経由でも多くの企業を支援してきた方です。

本ウェビナーは全3回シリーズの第1回です。第1回で扱ったのは「新規事業の意思決定をどう捉えるか」という土台の部分で、実際の判断基準の設計は第2回・第3回で扱っています(記事末尾にリンクがあります)。
PoCは進んでいる。それでも、なぜ意思決定だけが進まないのか
「検証はしているのに、事業が前に進まない」——水山氏が第1回の起点に置いたのは、この問いでした。たとえば、次のような状況です。
- PoCの成功は報告されたが、追加の投資額が決まっていない
- 「もう少し検証しよう」という判断が繰り返されている
- 関係者ごとに見ている評価軸が違い、判断がまとまらない
- 継続・撤退の責任者と判断基準が曖昧なままになっている
これは、個人の力量や努力の問題ではなく、意思決定の設計そのものの問題でした。
水山氏は講演の冒頭、直近半年に流通した新規事業ウェビナーのタイトルを並べたスライドを示しました。アイデアの創出、PoCの回し方、活動計画の立て方——その大半が「どう進めるか」という方法論を扱うものでした。「何にかけるか」という問いを正面から扱うものは、ほとんど見当たらなかったといいます。

現場でも同じことが起きています。「ベンチャー40社ほどとオープンイノベーション面談を実施した」「毎月一度、全プロジェクトのステージゲート会議を開いている」「管理人員を増強した」。これらの活動は「やった証拠」として積み上がります。しかし肝心の「何に・いくら・誰にかけるか」という問いには、答えていません。
「どう進めるかというものは、もう世の中いろんな方法論が出てきましたし、そこに関してもできること見えてることというのはたくさんあると思います。ただ、今日私がぜひ議論させていただきたいのは、では何にかけるんだということを扱っていないのではないかということでございます。」
結論:新規事業とは、段階的な「投資の意思決定」である
新規事業はオペレーション改善ではなく、投資の意思決定である。
これが第1回を貫いた水山氏の主張です。

従来、新規事業の文脈で問われてきたのは「アイデアをどう出すか」「PoCをどう回すか」「事業計画をどう作るか」です。しかし水山氏が示すのは、経営が本来問うべきは、「どの未来に会社の資本と経営機会を張るか」「どのKPIを満たせば追加投資するか」「どこで撤退するか」という視点です。
水山氏はドリームインキュベーター創業に関わった2000年頃の経験を打ち明けました。
「結局そのプロセスは作りました。戦略は作りました。それで管理はしました。でも、どれぐらいどんな風に立ち上がって、かつどんな時には撤退するということを決めていなくて。」
「どんな時には撤退するのかを決めていなかった」——立ち上げの基準も撤退の基準も定めないまま、その事業はうまく前に進まなかったといいます。プロセスを踏むことと、事業が前に進むことは別の話だ──これが水山氏の見立てです。検証そのものが目的ではなく、不確実性を一つずつ減らしながら「次の投資」を決めること——それが新規事業の本質だと水山氏は語ります。
多くの企業が「検証した気」になってしまう理由
なぜプロセスを持ちながら壁にぶつかるのか。水山氏はその根本原因を、個人の能力ではなく意思決定の構造に求めます。
標準的な新規事業プロセスは有効です。しかしそれぞれのステップには固有の壁があります。

壁の正体は、プロセスの巧拙ではありません。「何を明らかにすれば次に進む判断ができるのか」が決まっていないことです。
「アイデアのPoC、調査が不足して新規事業が立ち上がらない——そうではなくて、何にかけて誰に任せてどの条件で継続するんだ、どういったら撤退するんだ、こういったことが決まっていないから、新規事業という掛け声はたくさんあっても、あの会社、新規事業で大成功したよねというのが出てこないということにあるのではないかな、と。」
水山氏は、「やった気」になってしまう構造を次の3点に整理します。
- 何を明らかにすれば意思決定できるかが決まっていない
検証項目は設定されていても、「これが確認できたら次に進む」という条件が定義されていない。
- 検証項目と投資判断がつながっていない
PoCが成功しても、それが追加投資の根拠になっていない。
- 関係者ごとに見ている評価軸が異なる
技術、マーケティング、財務それぞれの視点が統合されないまま議論が続く。
PEファンドとの比較で見える「検証」と「投資判断」の違い
では、投資判断と専門性を両立させている組織はどこにあるのか。水山氏が参照したのはプライベートエクイティ(PE)ファンドです。
水山氏が日本の主要PEファンド7社の日本法人組織図を調査した結果、投資銀行出身者が最も多く、トップマネジメントに絞ればその傾向はさらに顕著です。PEは「投資判断・戦略・事業運営」の三つの機能を備えた組織として動いています。

もちろん、PEと新規事業は違います。既にある事業を磨くPEに対し、新規事業はゼロから立ち上げます。

既に完成した事業ですら投資判断の機能が要るのであれば、まだ存在しない新規事業にはなおさらこの判断が欠かせない──これが水山氏の見立てです。PEの「投資判断・戦略・事業運営」を新規事業に引き直すと、その判断は3つの要素に整理できます。
新規事業の判断に必要な3要素
新規事業の意思決定に必要なのは、次の3つの要素の統合です。
①技術の目利き(可能性を定義する)
技術・データ・IP等に何があるかを調べることはできます。しかし重要なのは「それが事業価値に変わるのか」という可能性を定義することです。技術の存在を確認することと、技術の目利きは別物です。
②勝ち筋(マーケティング・戦略)(誰に・何で・なぜかを定義する)
どの市場に、どの顧客課題に、どの武器でいくか。なぜ自社がその戦略を採れるのか。この問いへの答えが勝ち筋です。
③かけ方(投資判断)(いくら・どの条件で・どのシナリオでを定義する)
「投資」とはIRR・DCF・WACCといった手法を指しているのではありません。水山氏はマカオのカジノの比喩でこの本質を説明しました。
「今手元に100万円あります。マカオのカジノに行きました。とりあえず100万円一回でボンと賭けるか——そうではなくて、まず最初いくら賭けて、それでうまくいったらどうしよう、負けたからもうここでやめようと。最初どれぐらいから始めて、どういう時にもっと行こう、どうなったら止めようと動くものではないでしょうか。」
シナリオを持ち、条件を決め、追加と撤退の基準を事前に描くこと——それが新規事業における「投資」です。
たとえば、市場にサービスを投入して顧客を獲得しても、「その先どんな未来が見えたのか」「次に何を検証すべきか」が答えられていなければ、PoCは成功でも投資判断としては未完です。3要素の統合とは、こうした問いに答えられる状態をつくることです。
本当に難しいのは、3要素を「継続・撤退・追加投資」の判断に統合すること
3要素の名前と役割は理解できる。
では実際の判断場面で、どう使うのか——ここが第1回では意図的に踏み込まなかった領域です。
技術系コンサル、戦略コンサル、投資銀行、ベンチャービルダー——各プレイヤーにそれぞれ強みはありますが、技術・戦略・投資の3要素を一体で担える存在は多くありません。放っておくと、技術検証・戦略資料・投資試算の「寄せ集め」で終わってしまいます。

だからこそ、技術・戦略・投資の判断を「一人の統合責任者のもとでチームとして進めること」が水山氏の描く解です。各専門家が別々に動くのではなく、統合する存在が判断の軸を握ります。
ある企業では、技術・特許・論文の調査レポートが9件、費用にして6〜7千万円分も積み上がっていました。それでも担当者自身、その中身はほとんど頭に残っていなかったといいます。問題はレポートの質ではなく、「これが分かれば次に進める」という起点の設計がなかったことです。
しかし「統合責任者を置けばいい」と言うのは簡単です。実際の判断場面では、各要素を何で評価し、どの水準で次に進め、結果が食い違ったとき何を優先し、いつ誰が最終判断を下すのか——答えの出ていない問いが次々に現れます。
「誰が・どの基準で・どのタイミングで判断するか」の設計がなければ、統合責任者を置いても機能しません。この設計をいかに行うかが、第2回・第3回のテーマです。
参加者から寄せられた問い ― 自社に置き換えると何が難しいのか
Q&Aで寄せられた問いは、いずれも「自分の会社に当てはめると何が詰まるか」を問うものでした。ここでは、最も多くの企業に共通する問いを中心に、水山氏の回答の要点を紹介します。
Q. 経営会議で投資額の話が毎回ふわっとしたまま進みます。事前に確認しておくべき問いは何でしょうか?
「顧客のこういうペインがあるから、こういう商品を作ったら面白いというマーケティング仮説の議論は割とよく行われています。でも、結局それがどれぐらい化けるのか、そのためには何が分からなければいけないのか、何を検証しなければいけないのか、だから今必要なのはこれぐらいのお金なんだという、投資というところに結びついていないからふわっとしたまま流れていってしまうのかもしれません。」
「何のための投資か」「どれだけ化ける可能性があるか」「そのために何を検証する必要があるか」の三点が、「必要な投資額」と結びついていない——それが「ふわっと進む」構造的な原因です。経営会議前に確認すべきは、この三点と投資額の論理的なつながりです。この問いへの答えがあれば、経営会議の議論は「いくら投資するか」から「どの条件で追加するか」へと変わります。
Q. 売上ゼロの新規事業に、PEの投資の理屈をそのまま当てはめてよいのでしょうか?
「売上がないからこそ、IRR・DCFといった手法をそのまま当てはめるのではなく、『何が検証できれば次に進み、できなければ撤退するか』という時間軸のシナリオを描くこと。PEからは手法ではなく、思考の構造を借りればよいのです。」
Q. 社内に統合役を置いても、どの部署からも浮いて機能しません。社内では難しいのでしょうか?
「『浮いてしまう』のは社内人材の能力の問題ではなく、その役割がどう動くかの型がまだないからです。まずは外部人材が型(ロールモデル)をつくり、社内人材へ移行していく過渡期を含めて組織を設計するのが現実的です。」
Q. 撤退の判断が一番難しく、誰も止めると言えません。撤退ラインはどう引けばワークするでしょうか?
「撤退ラインは事後に『引く』ものではなく、『何が検証できなければ止めるか』を全員で事前に合意しておくものです。大切なのは、撤退を個人の責任にしない構造をつくっておくことです。」
第1回の到達点と、次に問うべきこと
第1回は「新規事業とは、段階的な投資の意思決定である」という結論まで言い切りました。一方、それを実際の判断に落とし込む段になると、答えは簡単には出ません。次のような問いが残ります。
- 技術・勝ち筋・かけ方の3要素を、どのフレームワークで統合して判断するのか
- 撤退・継続・追加投資の判断基準を、どう設計するのか
- 大企業の中に「投資判断できる組織」を、どう作るのか
これらが、第2回・第3回で扱うテーマです。
アーカイブ視聴のご案内
第1回の動画アーカイブでは、本記事で紹介した内容に加え、Q&Aで挙がった各問いの具体的な事例や前提条件まで、水山氏が踏み込んで答えています。
- PEの考え方を、売上ゼロの新規事業にどう当てはめるか(Q2の詳細)
- 統合役を社内に根づかせるための組織設計の進め方(Q3の詳細)
- 毎年10億円を投じても止められない事業をどう扱うか——撤退ラインの引き方と実例(Q4の詳細)
ご参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました。
シリーズの続き
第1回で残した「では実際の判断場面でどう使うのか」という問いは、続く2回で扱っています。
- 第2回: フレームを学んでも「続ける・やめる・増やす」が決まらない理由 — 技術・マーケティング・投資の評価が食い違ったとき、何を優先するか
- 第3回: 統合責任者は、どこから来るのか ー 必要なのは天才ではない — 出島・両利きの経営と、外部人材の投入
『HiTalent(ハイタレント)』は、戦略コンサルファーム出身者を中心とした審査済みのプロフェッショナルと、その活用を検討する企業をつなぐ案件マッチングプラットフォームです。戦略を描くだけでなく実行まで伴走できる人材を、新規事業・変革部門の「実行で詰まる」フェーズに、必要な分だけ(お一人から、チームでも)ご活用いただけます。

